球場のN子

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献血

 めまいを起こした同級生を保健室まで送り届けると、教師に、もう大丈夫だからあなたは早く授業に戻りなさい、と言われて廊下に放り出される。はい、と返事はするけれど、窓の外はめちゃくちゃに照りつける太陽とセミの唸り声でぎゃんぎゃんしており、その中で行われる体育の授業になんてまったく参加したくないわたしは、校庭に背を向け、ずんずんと廊下を逆行した。これを青春に昇華させるには、このまま、まるっと逃避行するのが手っ取り早いのだけれど、わたしは小心ゆえに一歩進むごとに増す罪悪感に耐えられず、結局すぐに地獄の釜へと引き返してしまうのであった。その同級生のめまいの原因は貧血らしかった。

 上記はわたしの創作の思い出話である。わたしの学生時代はこんなに整ってはいなかった。かといって、吉祥寺あたりにある雑貨屋の陳列棚の、所狭しと置かれた商品の混沌としたかわいらしさのようなものもなかった。捨てるタイミングを逃した教科書とプリントの雪崩れに、ぶわっと、白く細かいほこりの被さっている感じである。正直、おぼえていないのである。

 そして、この文章もまったくゴールを見失ってしまった。本当は、はじめて献血をしたことを備忘録としてここに記そうと思っていた。貧血の同級生を回顧する、という入りがそもそも間違っていたのだと、いまは反省している。

 わたしの献血体験なんてもうどうだっていいのだ。400mlを献じたかったのに体重の規定で200mlとなったこと。それからアクエリとブリックパックのカフェオレとトイレの芳香剤とキーホルダーをもらったこと。以上、それだけです。