球場のN子

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遠征の行方(下)

 わたしは愛知県の土地勘がまるでない。初上陸なのだから当たり前である。

 アクセスガイドによると、バンテリンドームの最寄駅は「地下鉄・ナゴヤドーム前矢田」駅または「大曽根」駅らしいのだけれど、わたしはそのどちらの名前も聞いたことがなく、泊まるホテルとの位置関係はもちろんのこと、駅の規模も、雰囲気も、周囲の駅とのヒエラルキーもわからなかった。

 そうなると、初心者はやはり字面の見慣れたJRを自然と選んでしまうものである。よく見ると「徒歩15分」と書いてあるけれど、所要時間というのはだいたい長めに表記されているから実際は7〜8分くらいだろうと解釈し、わたしは大曽根駅を目指してJR中央本線に乗った。

大曽根大曽根

 アナウンスが鳴り響く。下りたホームの駅看板には「大曽根」と大きく書いてある。間違いない、大曽根駅だ。わたしは改札を出てあたりを見渡した。あまりにものどかであった。そして、ドームはどこにも見当たらなかった。ドラゴンズファンどころか、一般人すらまばらなのである。

 違う。わたしのイメージする大曽根駅は、改札を出るとまずドラゴンズの青の巨大なるポスターがどーんと貼ってあり、ぞろぞろと移動するドラゴンズファンに導かれて通路に出ると、右手に立浪監督、大野、柳、左手に大島、ビジエド、高橋周平のずらりと並んだ、そういうところだった。

 そうか、わたしはきっと下りる駅を間違えたのだ。人のいない、ぽっかりとした小さなロータリーを前に、ははは、やってしまった、なにせはじめてなものだから、へっへっへ、などとはにかんでいると、頭上のななめ前に「ドームはこちら」といった主旨の看板があるのに気づいた。ここが大曽根駅であるのは間違いなかった。わたしはぬるまった特茶をごくりと飲み、痩せてしまうな、とそうつぶやいて、まっすぐの道をとぼとぼと歩きはじめた。

 ドームの隣にあるイオンモールに着く頃には、わたしはすでにへとへとだったけれど、そこにはビジターのユニフォームを羽織ったベイスターズファンと大勢のドラゴンズファンがいて安心した。ようやくやってきたのだと実感した。

 モールを抜けるとドームがどーんとすぐそこに見えた。わたしはドアラの人形焼の屋台を見つけると、10個入りの小ぶりなのと、手のひら大のを2個買った。うちに帰ってから食べたけれど、しっとりとしておいしかった。小さいのはホテルで結構食べてしまい、最終的に東京に持ち帰ったのは3個くらいだった。

 ドラゴンズの選手の旗のゆらめく通路を渡り、ドームの前に出た。わたしはよし記念写真を撮ろうと果敢に自撮りをし、それからドラゴンズファンの男性二人組に「写真を撮ってほしい」と頼まれて対応した。撮ってから少し話していると、わたしはどうやらドラゴンズファンと思われていたようだったので、途中で訂正した。今日はよろしくお願いします、とにこにこと挨拶をして別れた。現地のドラゴンズファンと交流できてわたしはうれしかった。

 試合は2対1でベイスターズが勝利した。相手の先発の高橋宏斗くんがとてもよかった。ロメロはよく踏ん張った。そして、佐野はよく打ってくれた! わたしは祖父江のキャラメル王子パフェと串カツを食べた。パフェは想像の倍の大きさであった。わたしは名古屋の椀飯振る舞いに感動した。でかいパフェほど、テンションの上がるものはない。帰りは人の流れに身を任せているうちに名古屋に着いた。

 ホテルに帰ると、投手戦って腹減るよな、とかなんとか、打撃戦だって減るくせに言い訳をして、まずはドアラの人形焼を半分以上食べた。それからお土産に買ったドアラのゴーフレットとラングドシャまで容赦なく開封し、貪った。わたしの飽食は、深夜にまで渡った。

 翌日は名古屋城を観光、大須商店街を闊歩し、お土産をたんまりと買って新幹線に乗り込んだ。ひとい降雨で移動はつらかったけれど、観光地はかえって空いていたのでラッキーだった。例の飽食の際に食べた小倉トーストのラスクがうますぎたので、追加で5箱買った。その他、いろいろの場所で買った大量のお土産を隙間なく詰め込んだキャリーケースは、帰宅するとすぐに爆発した。

 わたしの記録は以上である。